2012 年 63 巻 5 号 p. 330-335
症例は58歳男性。透析歴8年。幼児期に開腹術の既往あり。反復するイレウスのため過去2年間入退院を繰り返してきた。パントテン酸,ジノプロスト,大建中湯,半夏瀉心湯を投与するも著効を認めず,精査加療目的にて当院へ転院となった。腹痛・嘔吐を認め,腹部X 線検査で小腸ガスを認めた。通過障害の原因検索のため,腹部CT,PET-CT,上部・下部・小腸内視鏡検査,イレウス管造影検査を施行したが,明らかな腫瘤や軸捻転などの閉塞機転を指摘できなかった。真武湯を投与したところ,腹痛・悪心など腹部症状の改善を認めた。現在まで10ヵ月以上本剤を継続処方しているが再発を認めない。透析患者は腎不全による慢性の水滞状態にあり,排便障害,四肢の冷感など新陳代謝の低下した虚証の頻度が高いため,透析患者にイレウスを合併した際は本剤の適応となる症例が多く存在する可能性がある。