本稿では,生理学者である橋田邦彦(1882‐1945)の「医」の思想のうち,「医人」・「医行」・「格医」の3点のいとなみについての描写を試みる。「医人」とは,「医的科学」としての「医学」,「仁者の行う術」としての「医術」,「人」の道としての「医道」の三要素からなる「医」というものを体得した存在のことであり,「医行」とは医療者が「医」というものと常に対峙することを通じて,どのような医療者となるべきかとの自問自答を繰り返すなど,「医人」として存在し続けるためにとりおこなう「医」における「行」であるという。そして「格医」とは,「医」という理念を保持していくためのいとなみであり,「医」のなかに生じた不正を取り除いたり,「医」そのものを転換や転向させたりすることで,正しいものだけにするという目的を持つものであるという。