臍傍部,回盲部および S 状結腸部の筋肉の有痛性硬縮は瘀血病態と関連していることが知られている。しかし,これまでにその発現機序は不明であった。最近,筆者はこれらの徴候が経穴の痞根(ExB4),血海(SP10),あるいは硬縮部それ自体への鍼の施術で消失することを見いだした。さらに,これらの腹部の硬縮が上腹壁動脈あるいは下腹壁動脈の最も末梢の部位に位置することに気づいた。これらの事実は腹部の硬縮が上腹壁動脈あるいは下腹壁動脈の血流量の減少によりもたらされることを示唆しており,鍼による入力信号は単に胸髄11と12髄節のαとγ運動神経細胞の興奮を抑制するばかりでなく,興奮状態にあった交感神経活動をも抑制することを示唆するものである。硬縮を発現させる最初の有害信号は自然炎症をともなった骨盤腔内静脈の鬱血によって発生するものと推測した。