2019 年 70 巻 4 号 p. 313-323
『宋板傷寒論』に収載される未修治ブシ配合処方:四逆湯,通脈四逆湯,乾姜附子湯について,傷寒論成立期とされる後漢代の量衡に基づいた検討から往時想定されていた煎じ上がりまでの煎煮時間を推定し,また実際に煎液を調製して,アコニチン型ジエステルアルカロイド(ADA)をはじめとする附子由来ジテルペンアルカロイドの煎煮中濃度の経時的変化を分析した。通脈四逆湯の条文にある「強人」を対象とする加減方では,乾姜の増量がもたらす煎煮時間の短縮により,未修治ブシから溶出した煎液中の ADA 量が約20%増加することが示された。また,甘草が配合されない乾姜附子湯煎液は四逆湯煎液に比べてpH が高値で,ブシ由来ジテルペンアルカロイドの構成が大きく異なり,低 ADA,高アコニン・ヒパコニンとなっていた。往時の医師が共煎生薬の工夫によって未修治附子配合処方煎液中の ADA 量を注意深く調節していた可能性が示唆された。