本邦における薬酒の由来は中国よりの渡来に源を発するものであり,中世以降には単味・多味いずれの場合にも日本独自のものに変えた薬酒の出現が認められる。この日本薬酒の発展過程では, 比較的高水準の中医学理論に基づく正統的流れから種々の変方が派生し, 時代と共に変化してきた事実が方義解析を用いて立証できる。特に近代に至ると, 漢方医学真髄の伝承には極めて困難な情況となり, 理論的根拠の脆弱化を招き方組成の乱れが増して来た。ここには, 日本薬酒の効能が「滋養強壮」に限定され, しかもその定義が明確でなかった経緯がある。
この問題点を解決するために,「滋養強壮」の定義を中医学理論に基づく厳密な考察により確定し,「滋養強壮剤」としての薬酒の意義と基本構成を論じ, 薬酒方剤の組方原則と薬物配合量を考察した。この基本路線の上に, 今後の日本薬酒の在るべき姿を展望し, 薬酒方剤の正しい発展と適正な利用を提言した。