末梢血流変動のスペクトルを鍼灸施術効果の客観的評価の指標として用いる場合, 生理的な変動についても検討の必要がある。そこで健常者の日常生活のさまざまな状況における末梢血流変動のスペクトルを検討し, その生理的変動や愁訴との関連をみた。その結果,
1) 自律神経系の調和がとれている時は, 末梢血流の変動スペクトルは変動周波数成分強度が周波数 (f…frequency) に反比例する1/f型のスペクトルを示した。
2) 交感神経系の緊張状態や意識レベルでのコントロールが失調している時は, 血流変動の周波数成分強度が周波数に関わらず一定な1/f0に比例するスペクトルに近いものになった。
3) 熟睡中は, 長い変動が1/f0型のスペクトルに近いものになり, 中枢の意識レベルが末梢血流変動のスペクトルに大きな影響を与えていることが示唆された。
4) 以上の血流変動は皮膚においては真皮細血管のレベルで起きていることが示唆された。従って計測深度の深い (0.5mm) 北大応用電気研究所製のプロトタイプの血流計では測定部位に制限を受けることなく血流変動のスペクトルを検討できた。一方測定深度の浅い (0.25mm) 市販の血流計 (キャノンLC-1) では表皮のうすい指腹でのみ検討が可能であった。