1994 年 44 巻 4 号 p. 553-560
症例は41歳, 男性。平成2年11月頃より食欲不振, 胃部膨満感が強く, 各種検査の結果, 腸上皮化生を伴う慢性胃炎, 軽度うつ状態と診断され, 各種西洋薬を試みたが, 症状は軽快しなかった。平成4年6月19日, 当院外来を受診した。心窩部のつかえ感と胸脇苦満があり, 上部消化管内視鏡検査で, 胆汁逆流と腸上皮化生を伴う慢性胃炎を認めた。それまでの内服薬に, ツムラ柴胡桂枝湯エキス顆粒7.5gを加えたところ, 1週間で症状は著しく改善し, 約5ヵ月で体重は55kgより58kgに増加した。20週後の内視鏡検査では, 胆汁逆流は減少し, 腸上皮化生を伴った慢性胃炎は軽快していると判断された。組織学的検討では, 腸上皮化生を伴う萎縮性胃炎は進行していると判断された。柴胡桂枝湯は, 本例において, 著しく自覚症状を改善させ, 体重増加をもたらしたが, これは, 胃粘膜の組織学的改善によらず, 患者の心理面や消化管の運動機能に影響した可能性が推定された。