日本東洋医学雑誌
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桃核承気湯加味方が奏効したアトピー性皮膚炎の4症例
寺澤 捷年喜多 敏明嶋田 豊柴原 直利伊藤 隆
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1995 年 46 巻 1 号 p. 45-54

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抄録

桃核承気湯加味法が奏効した難治性のアトピー性皮膚炎の4症例を報告した。症例1は25歳, 女性。小学校低学年時に発症。1992年7月当科初診。首と口周囲の痒みが強い。腹力は中等度で, 左右の臍傍圧痛・回盲部圧痛を認め, 便秘と月経前緊張症があり, 上半身に皮疹が分布。桃核承気湯加冬瓜子・〓苡仁を投与したところ, 4週間後より改善し, 順調に経過している。症例2は14水歳, 女性。生後3ヵ月頃発症。1993年1月当科初診。四肢関節屈側, 顔面, 頸部を主とする乾燥性皮疹がみられた。顔面の紅潮, 皮疹が上半身に強く分布すること, 左右臍傍の圧痛, S状結腸部の圧痛, 便秘傾向を目標に桃核承気湯加牡丹皮・〓苡仁を投与。2週間後に改善傾向が見られたが, 顔面の発作的な紅潮を伴うことから, 苓桂味甘湯を併用した。症例3は28歳, 女性。3歳頃に発症。1993年10月当科初診。顔面, 肘部など上半身を主に乾燥性, 一部湿性皮疹が見られた。左右臍傍圧痛, S状部, 回盲部の圧痛があり, 上熱下寒が明らかなことから桃核承気湯加冬瓜子・牡丹皮・紅花を投与した。症例4は26歳, 女性。幼少期発症のアトピー性皮膚炎。1988年より外用剤と内服薬を投与されていたが改善せず, 1993年10月に当科を初診。皮膚は全体に乾燥して, 上半身, 特に上腕, 背部, 顔面に赤味の強い痒疹がある。便秘傾向があり, 脈は沈・緊。腹力はやや軟弱で, 軽度の心下痞鞭と両側臍傍の圧痛を認める。初診時, 当帰飲子を投与したが無効。上半身に皮疹が強いこと, 上熱下寒, 便秘傾向を目標に桃核承気湯を投与した。3ヵ月後には皮疹はほぼ消失し, 経過順調である。文献的にはアトピー性皮膚炎に対する桃核承気湯の治験例は無く, 本報告が初めてである。上半身に皮疹が分布し, 上熱下寒の傾向, 臍傍圧痛, S状部の圧痛, 便秘傾向があることが本方使用の目標となる。

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