日本東洋医学雑誌
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漢方治療が奏功した味覚低下の三症例
伊藤 隆佐藤 伸彦喜多 敏明柴原 直利嶋田 豊寺澤 捷年
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1999 年 50 巻 1 号 p. 43-48

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抄録

味覚異常の治療として亜鉛製剤が使用される場合が多いが, 反応しない症例や高齢者においては難治となる例も少なくない。筆者らは漢方治療が奏功した味覚低下の三症例を経験した。第1例49歳女。口腔疾患の後遺症で味覚と知覚の低下があり, 黄連解毒湯が奏功した。第2例43歳男, 精神分裂病合併例と, 第3例76歳女, 特発性味覚低下症には, ともに柴胡加竜骨牡蛎湯が奏功した。漢方薬による味覚異常改善の機序として, 味蕾で亜鉛の関与する種々の情報伝達系に好影響を及ぼしている可能性が推測されているが, 今回の症例においてはさらに黄連解毒湯の口腔粘膜修復作用, あるいは柴胡加竜骨牡蛎湯の向精神作用が症状改善に貢献したものと考えられた。高齢者の味覚異常が近年増加しているが, その原因として加齢に伴う抑鬱状態が潜んでいるとの指摘があり, 気鬱を改善する柴胡加竜骨牡蛎湯をはじめとする漢方方剤によるアプローチは本症の治療にとって有用性が増すものと考えられる。

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