伝統的考え方に基づく漢方治療が肝細胞癌 (HCC) 発生抑制に有用であるか否かを検討した。対象は1年以上経過を観察し得た140例のC型慢性肝炎および肝硬変とし, 初診時の血小板数により, 3群に分類した。すなわち, 血小板数が10万未満をI群, 10万以上14万未満をII群, 14万以上をIII群とした。漢方薬は受診ことに自覚症状と身体所見を参考にして選択した。人年法によって求めたHCC年間発生率は、I群で0.89% (95%Cl: 0-2.63)、II群で1.15% (95%Cl: 0-3.31), III群で0.29% (95%Cl: 0-0.88) であった。この結果は, 従来報告されている未治療群におけるHCC発生率と比較して低値であり, また小柴胡湯あるいは十全大補湯単独で長期投与した報告と比較しても低値であった。初診時年齢60歳以上はHCC発症の危険因子と考えられたが, 性別, ALT変動パターンとHCC発症には有意の相関が認められなかった。投与された処方は53処方で, 最頻用処方は補中益気湯であった。以上の結果から, 伝統的考え方に基づく治療は, 慢性C型肝疾患におけるHCC発症抑制に有用であると考えられた。