2006 年 57 巻 1 号 p. 37-44
漢方 (煎じ薬) 処方を調剤する場合, 通常処方集中には成人薬用量しか表示されていない。その為, 小児薬用量は成人薬用量の分数倍の減量指示として処方されることが多い。煎じ薬の薬用量ならびに水量を分数倍に減量して出来た煎出液が, 医療用漢方エキス製剤を小児薬用量として分数倍した場合と, 同様のこととして理解してよいのか検討する必要がある。そこで, 煎じ薬作製時における成人量と小児量の煎出液が, 服用する際に成分的に同等であるかを検討した。煎出方法として成人量は, 当研究所において常煎法としている初期水量600mLを半量の300mLになるまで, 小児量は生薬量, 初期水量ともに成人量の2/3倍, 1/3倍に減量する2通りで検討し, 成人での場合と同様に初期水量の半分になるまで煎じた。今回使用した処方としては当研究所において使用頻度が高く, 異なる処方重量である黄連解毒湯 (9g), 桂枝茯苓丸料 (20g), 十全大補湯 (33g) の3種類を選び検討した。成人量と小児量を比較したところ, 処方によりpH, エキス抽出率, 抽出成分において差がみられた。黄連解毒湯と十全大補湯の小児量のエキス抽出率は, 成人量に比べ低かった。黄連解毒湯中の含有成分 ferulic acid, 桂枝茯苓丸料中の含有成分 paeoniflorin と十全大補湯中の含有成分 paeoniflorin, liquiritin は成人量に比べ小児量で抽出率が低かった。また, 桂枝茯苓丸料中の含有成分 albiflorin と十全大補湯中の含有成分 albiflorin, trans-cinnamic acid は, 小児量 (2/3倍量) で抽出率が高かった。以上より, 煎じ薬においては成人薬用量を分数倍し, 小児量として取り扱うことが医療用漢方エキス製剤を分数倍し, 小児量として取り扱うことと同じでないことが示唆された。