2006 年 57 巻 1 号 p. 57-63
症例は65歳男性, 1999年に巨大結腸症を発症し, 高度の腹部膨満を主訴として2003年7月に当科を受診した。大建中湯, 厚朴三物湯, 中建中湯, 厚朴三物湯, 八味地黄丸を用いて治療を行なった。一回目の厚朴三物湯投与では腹満は却って悪化した。中建中湯投与では一時的には症候は改善したが, 副作用である偽性アルドステロン症を発症し入院加療を要した。二回目の厚朴三物湯投与は著効し腹部膨満が消失した。本症例は巨大結腸症による腹部膨満に対して, 一回目と二回目では厚朴三物湯の治療効果が全く異なっていた。この事実は同じ症例であっても病態は時々刻々と変化することを示しており, これが漢方理論でいう証の変化と考えられる。本症例は, 証の変化を正しく捉えて漢方治療を行なうことが重要であることを改めて認識させられた症例であるので報告する。