2006 年 57 巻 3 号 p. 345-351
症例1は27歳の1回経産婦。前回, 妊娠中毒症および骨盤位で帝王切開術で分娩す。今回は経膣分娩 (VBAC: vaginal birth after cesarean) を希望していた。今回の妊娠経過に特に異常は見られず。妊娠37週5日で破水のため入院す。感染予防のため抗生物質投与しつつ, 自然陣痛の発来を待機する。破水後44時間経過し陣痛が発来しないため帝王切開術による分娩の終了を考えたが, 桂枝茯苓丸エキスを頓服で投与したところ, 子宮収縮が始まる。その後陣痛増強し, 妊娠38週1日正常分娩す。症例2は33歳の1回経産婦。前回, 微弱陣痛のため oxytocin による陣痛促進で経膣分娩す。今回妊娠39週5日で誘発分娩 (社会的適応) 希望のため入院す。前回経験した陣痛促進がつらかったため (本人の弁), 今回の oxytocin の投与に躊躇が見られたので, 桂枝茯苓丸エキスを頓服で投与したところ, 子宮収縮が始まる。その後陣痛増強し, 同日正常分娩す。
桂枝茯苓丸は代表的な駆〓血薬として臨床の場で広く応用されている。一方, 催生湯として, 万病回春には陣痛促進作用をうかがわせる記述があるが, 近年, 桂枝茯苓丸を陣痛促進の目的で使用した報告は少ない。桂枝茯苓丸が oxytocin や prostaglandin の代用になるとは考えていないが, 桂枝茯苓丸の投与で反復帝王切開術を回避し, また, 陣痛を増強して正常分娩に導いた症例を経験したので報告した。