2006 年 57 巻 6 号 p. 769-779
腎虚を基礎病態とする少陰病の主藥方は, 灸甘草を含む四逆湯類と灸甘草を含まない方剤 (白通湯・真武湯・附子湯) の二群に分けられる。また幾多の文献に見られる腎虚の治療薬方の多くにも灸甘草は含まれていない。灸甘草の役割を理解するために, 危機存亡の病態にある四逆湯, 白通湯の各證の相異を, 先人の諸説と筆者の治験を礎に考察した。構成生薬は, 四逆湯が灸甘草, 乾薑, 生附子であり, 白通湯が葱白, 乾薑, 生附子である。両湯倶に補脾胃, 補腎の作用があるが, いずれの作用が主となるかは灸甘草の有無により異なる。四逆湯は補腎より補脾胃のりに優れ, 白通湯は補脾胃よりも補腎に優れている。この規は急性症のみならず, 慢性症の腎虚の治療においても適っている。灸甘草は少陰病期の治療において重要な役割を担っていると考えられる。