人間と環境
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原 著
中国の国際河川における紛争防止メカニズム要因の比較考察
天野 健作
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2016 年 42 巻 3 号 p. 2-17

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抄録

中国の水資源政策は,アジア地域において決定的な影響力を持っている。なぜなら利用可能な水資源の主要を占める国際河川において,その大半で中国が上流に位置するからである。本稿では,国際河川における中国の水資源外交政策について,カザフスタン,ロシア,インド,メコン川流域諸国の4カ国・地域との関係を「紛争防止メカニズム」の観点からその要因を比較した。中国とこれら4カ国・地域の間に構築されたメカニズムの共通点としては,「常設の共同機関」の存在がある。そこでは,定期会合の開催や「情報・データの交換」を通して信頼の醸成が意図され,国際水資源をめぐる紛争の防止を目指してきた。しかし,中国の北方に位置するカザフスタン・ロシアと,南方に位置するインド・メコン川流域諸国とでは,中国は異なるメカニズムを取っていることが判明した。その理由を考察すると,中国の領域主権原則から現れていることや,中国の国際河川における問題認識の違いがあるとみられる。特に関係が進展しているカザフスタンに対しては,水資源以外の要素が関係を定めていることが指摘される。いずれにしても中国の紛争防止メカニズムの構築は,主に「二国間アプローチ」を取っている所に特徴があり,国際河川流域における関係諸国を全て含んだ「多国間アプローチ」は取っておらず,その展開は今後の研究課題の一つとして挙げられる。

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© 2016 日本環境学会
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