感染症学雑誌
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原著
ノロウイルスのゲノム解析と流行発生のしくみ
ノロウイルスのゲノム解析と流行発生のしくみ
本村 和嗣横山 勝岡 智一郎片山 和彦野田 衛田中 智之佐藤 裕徳
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2012 年 86 巻 5 号 p. 563-568

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抄録

 我々は,ヒトノロウイルス感染症の流行予測とワクチン開発の基盤情報を得る目的で,2006 年5 月~2010 年3 月の間に全国19 の道府県,20 カ所の拠点衛生研究所で収集した感染者糞便中のGroup II の中の遺伝子型4 型(以下GII.4)全ゲノム配列を調べた(約7.5kb,n=277).糞便試料から核酸を抽出し,RT-PCR により重複する2 種のゲノム断片(5.3,2.5kb)を増幅し,ダイレクトシークエンシング法で一感染者から 1 つのゲノム全長の配列情報を得た.ゲノム配列の進化系統,近縁関係は最尤法により解析した.流行株のアミノ酸の特徴を同定し,分子モデリング法を用いて,カプシド蛋白質で立体配置を視覚化した.解析期間内,2006b 亜株が圧倒的に優勢なGII.4 単系統群として存続した.一方,他にもGII.4 単系統群が8 種類発生したが,劣勢群として局地的流行に留まった.2006b 亜株は,2006~2010 秋冬期にかけて,全長にわたり,8 カ所アミノ酸置換が生じていた.カプシド蛋白質に生じた変異は,立体構造上,ループに位置していた.この変異により,抗原性が変化すると推察された.高い変異率,感染力,増殖能が組み合わさり,ヒト社会では,日々膨大な数の変異ウイルスが発生していると推察される.抗原性が大きく変化したウイルスが出現すれば,ヒト社会の中で感染が広がり易いことが推定された.流行の変動に,ヒト集団のカプシド突端部への免疫が関与している可能性がある.

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© 2012 社団法人 日本感染症学会
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