感染症学雑誌
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アシネトバクター菌血症の初期治療における抗菌薬選択と死亡率との関連性
濱田 博史林 雅
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2021 年 95 巻 3 号 p. 301-306

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抄録

グラム陰性ブドウ糖非発酵性のアシネトバクターは,自然環境や,健常人および免役能低下患者の皮膚や腸管などから分離され,免疫不全となるような基礎疾患を有する患者で肺炎やカテーテル感染症を起こす場合がある.またアシネトバクターは複数の抗菌薬に耐性を示すことが多いため,経験的治療として選択された初期治療薬に耐性を示す場合には予後が悪化する可能性がある.一方,担癌患者や終末期など状態が悪い患者での感染が多いこと,日本においては,海外に比較して多剤耐性菌のリスクが低いことなどの点も存在する.今まで初期治療とその予後に関しての研究は限られており今回は自施設での2009 年1 月から2018 年 7 月までのアシネトバクター菌血症68 症例を後ろ向きに解析し,初期治療の選択と予後への影響について検討した.患者の平均年齢は69 歳.感染巣は腸管感染症(34%),カテーテル感染(25%)が多かった.初期治療の抗菌薬が適切と判断された症例は43 例(63%),不適切と判断された症例は25 例(37%)だった. 2 群間の30 日死亡率において差は認めず9 名(21%)及び6 名(24%)(P 値=0.90)であった.現在の日本において,アシネトバクター菌血症では初期治療の選択は重要でなく,予後の規定因子として初期治療の選択には左右されず,背景疾患や年齢が予後を規定する因子である可能性がある.必ずしも初期から広域に加療する必要はなく,培養結果に応じて適切に選択することが重要であることが示唆された.

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© 2021 一般社団法人 日本感染症学会
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