感染症学雑誌
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Salmonellaの大型プラスミドと胃腸炎起病性との関係について
村瀬 稔仲西 寿男坂崎 利一
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1988 年 62 巻 2 号 p. 171-179

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抄録

最近, Salmonellaの一部の血清型で30-60Mdの大型プラスミドがその病原性に関係するといわれる. 私たちはこれらに該当するプラスミドと胃腸炎起病性との関係を検討するため, 主として急性胃腸炎患者由来の血清型Typhimurium185株, Enteritidis35株を含む33血清型, 458株および家畜由来のTyphimurium21株についてプラスミドの検出を試みたが, 30-60Mdのプラスミドを保有する菌株は, Typhimuriumのヒト由来1株および家畜由来7株のみであった. そこで60Mdプラスミド保有および非保有のTyphimuriumそれぞれ2株ずつを用い, それらの108および104ずつを15日齢のC57BLマウスに経胃接種したところ, プラスミドの有無にかかわらず, いずれの菌株も最終的には全身感染でマウスをたおしたが, 60Mdプラスミド保有菌株接種群では, 非保有株接種群に比べて生残日数が短かかった. これを接種後の菌のマウス体内分布からみたとき, 60Mdプラスミド保有株のほうがより早期に実質臓器に侵入することがわかった. いっぽう, 60Mdプラスミド保有株6株を含めて, 各種のプラスミド保有および非保有のTyphimurium20株のHeLaおよびHEp-2細胞への侵入性を比較したところ, 両者間に有意義な差はみられなかったのみならず, その率は高いものでも7%以内にとどまり, また細胞1個あたりの侵入菌数は数個にすぎなかった. 以上の成績から, 一部のSalmonellaの血清型にみられる大型のプラスミドはマウスや家畜のチフス症または全身感染における菌力の強さ, とくに菌が腸壁を突破してからのちの動向に関係するが, ヒトの急性胃腸炎起病性には関与しないと考察された.

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