1981 年 22 巻 9 号 p. 1326-1330
症例は44歳の農家の主婦で,右上腹部痛と発熱を主訴として来院した.
入院後の諸検査では,肝腫大を認めるほかは理学的に異常所見はなく,また消化管の索でも,胆のうは造影良好,胃バリウムでは右方よりの圧排が認められたのみであった.
生化学的検査では,トランスアミナーゼ軽度異常,Al-P, LDH高値,また白血球増多,沈尤進,CRP強陽性より,胆道系あるいは肝臓の感染症または,悪性腫瘍が疑われ,精査の結果,肝膿瘍が最も強く疑われ,外科転科後手術が行なわれた.術中の肉眼所見より,肝血管腫の可能性がもたれ,切除標本の組織所見より診断が確定した.
本症例は,肝血管肉腫の原因としてあげられている,トロトラスト,塩ビモノマーと全く関係がなく,ヒ素系農薬使用の有無も不明であった.