1982 年 23 巻 3 号 p. 313-316
組織学的に確認された急性妊娠脂肪肝の生存例は稀である.最近,我々は,本症を経験し,帝王切開を施行し,母児共に救命し得たので,検討を加えて報告する.症例は27歳の主婦で,妊娠37週より,嘔吐,黄疸が出現した.血液凝固能はよく保たれていたので,帝王切開を行ない生児を得た.同時に施行した肝生検の組織像では,肝細胞は無数の小脂肪滴で占められ,急性妊娠脂肪肝と確定診断された.帝王切開後,肝機能は急速に改善し,第37病日の肝生検は,ほぼ正常な組織像であった.本症にはテトラサイクリン投与はなく,妊娠の継続自体が病因と深く関係していると思われた.妊娠末期の黄疸例では本症を他の疾患と鑑別し,胎児娩出,妊娠の中絶を計り母児を救命するべきである.