1986 年 27 巻 11 号 p. 1616-1621
トロトラスト注入約45年後に発生した肝多重癌の1例を報告する.症例は70歳の男性,帯状庖疹の基礎疾患の精査のため入院.血液生化学検査でALP, LAP, γ-GTPの高値を認め,腹部単純X線写真,腹部CTにて肝,脾に網目状の陰影及びリンパ節の石灰化陰影を認めた.肝動脈造影にて右葉後区に異常血管像あり胆管癌と診断した.約8ヵ月の経過で死亡,剖検の結果右葉後部の肝細胞癌と,左葉肝門部よりの胆管細胞癌の2つの独立した腫瘍を認めた.非癌部肝には肝硬変の所見なくトロトラストの沈着を,又脾は著明に縮小しやはりトロトラストの沈着を認めた.