2000 年 41 巻 3 号 p. 199-204
症例は80歳の男性. 糖尿病にて外来通院中, 腹部超音波検査にて肝に腫瘤性病変が認められ, 入院となった. 肝炎ウイルスマーカーはB型, C型, G型肝炎ウイルス, いずれも陰性で, アルコール性肝炎, 自己免疫性肝炎なども否定的であり, 慢性肝疾患も認めなかった. CEAの上昇がみられたため, 消化管を検索したところ大腸癌, 胃癌が認められた. 転移性肝癌との鑑別のため施行した肝生検では中分化型肝細胞癌であった. rasp 21, c-myc, p-53の発現につき行った免疫組織化学的染色では肝と大腸におけるrasp 21と大腸におけるp-53で発現異常を認めた. 非腫瘍部の肝組織は慢性肝疾患合併はなく病因不明の肝細胞癌で, かつ同時性の3重複癌であることより, 発癌機序を考える上で非常に示唆に富む症例と思われ報告した.