2001 年 42 巻 6 号 p. 321-326
症例は60歳, 女性. 1999年2月, 腹部鈍痛を認めて来院し肝右葉の腫瘤を指摘された. ピルの服用歴と糖尿病の既往歴はない. 肝機能検査に異常なく血清のB型とC型肝炎ウイルスマーカーは陰性, PIVKA IIは66mU/mlと高値であった. 画像上, 腫瘍は動脈相での新生血管の増生を示していたが, 径の広狭不整なく術前診断は肝細胞腺腫, 鑑別診断を肝細胞癌とした. 肝S5, S6切除術後にPIVKA IIは低下した. 組織学的に腫瘤内部に門脈域構造がなく著明な偽腺管構造をとり, 組織所見で両者の鑑別は困難であった. 腫瘍部のMIB-1免疫組織染色は0.5%であり, 増殖期の細胞は正常部と差がないことをふまえて良性腫瘍と診断した. 肝細胞腺腫と肝細胞癌の鑑別に難渋する症例では分子生物学的手法を加味した診断の確立が必要と考えられた.