目的 大熊信行氏の生活経営理論の成立過程を、「配分原理」の展開とむすびつけながら把握する。それを通して、「配分原理」の意義を検討する。方法 主として、大熊氏の諸論考を比較検討する。結果 1.市場経済から相対的に自律的な存在として生活場が把握されることにより、生活経営学は始まる。大熊氏においては、J.ラスキンと共通する市場忌避的基調を伴いつつ、生活場の自律性が措定されている。2.配分原理は、生産や生活の資源を「按排充当」すべく経済主体を内面から律するルールであり、H.H.ゴッセンの第一法則(限界効用(利用)均等法則)に端的である。3.配分原理の発見は、生活場の自律性の発見である。そこには、意志によって生活資源を配分することができる人間への驚きと励ましの気配が感じられる。4.配分原理は静態的な資源「按排」過程に関するものであるが、動態的な情況に対処する「緩急原理」へと発展させられる。5.「『経済』と『技術』の相互交渉」として経営をとらえるゴットル学説に依るなかで、配分原理が「経済」カテゴリーに位置づけられる。そして、同カテゴリーへの洞察を深めるなかで「経済構成体論」(家庭論や消費論)が展開される。6.4、5の過程で、3に感じられた理念性が薄まる。ただし、配分の原理が指針や仕方として具体化されることはない。7.大熊氏の諸概念は、新しい生活経営(学)の方法を模索するうえで示唆的である。