抄録
目的 食べ物を口に運ぶ時に用いる道具を食具と呼ぶが、日本人がすぐに思いつく食具は箸であろう。わが国における箸の普及は、日本料理や食事作法の形成に深くかかわってきたが、食の欧米化や食品産業の発展により日本人の食生活は50年前とは大きく異なっている。食べ物が変化するにつれて使用する食具が変わることは必然である。本研究では、家庭での食事の際にどのような食具が使用されているのかその実態を調査することを目的とした。
方法 都内の女子短大生175名を調査対象者とし、2007年4月から7月にアンケート調査を実施した。調査内容は、85種の料理をあげ、その料理を家で食べる時、普段使っている食具を選ばせた。85種の料理は、家庭で一般的に食べていると思われる和風、洋風、中華風の料理で、汁物、ご飯物、おかずなどを食生活調査資料集および料理本から選択した。食具は、箸、スプーン、フォーク、ナイフ、レンゲ、楊枝、手食であり、複数回答も可とした。
結果 有効回答率は88%であった。箸の使用率100%の料理は、鯵の塩焼き、鯖の味噌煮、刺身、天ぷら、しゃぶしゃぶ、すき焼き、肉じゃが、カップラーメンであった。箸の使用率が70%以下の料理は、かき玉汁、コーンスープ、クリームシチューなどの汁物、胡麻豆腐、卵豆腐茶碗蒸しなどの柔らかく崩れやすいゲル状食品、ハヤシライス、カレーライスなどの汁かけ飯、雑炊、お粥などの飯料理であった。これらの料理では、箸のかわりにスプーンやレンゲのような匙類が使用されていた。かき玉汁、雑炊、お粥は、和風料理であるが、流動性が高い食べ物であり、このような料理の場合には、器に口をつけて食べる箸が敬遠される傾向がみられた。