目的茶道は,日本の伝統産業の多くの(茶碗,炉,茶杓,土壁等)”もの”を使い,およそ五百年の歴史を重ねてきたと報告され,伝統芸能,そして精神文化,神道的な部分をも点前の中に見る事が出来ると考えられている.また茶道の点前は茶という飲料を調理する生産技術でありながら美の所作として認識されているとの報告もあり,その伝統技術に内在している暗黙知を形式知化することによって,点前の動作に潜む美しい動作とは何かを明らかにできると考えられる.本研究では風炉の薄茶点前の作業工程を分割し,それを基に動作解析を行なうことで点前動作の美しさの要因を検討した.
方法被験者は,茶道歴29年の成人男性(51歳)で行なった.動作解析に必要な赤外線反射マーカーは,身体上の10点に貼付した.風炉の薄茶点前の作業工程は,準備動作(10行程),帛紗捌き(7行程),棗をきよめる(5行程),帛紗の捌き直し(6行程),茶杓をきよめる(3行程),茶筅通し(31行程),菓子挨拶(2行程),茶を点てる(22行程),茶をすすめる(4行程)の9段階90工程に分割した.それを基に準備動作(10行程)の中の,柄杓を左手で取り体正面で構える,居前を正す,棗を取り茶碗と膝の間に置く,3つの工程の動作を解析対象とした.
結果柄杓や棗を取りにいく動作時に,肩は大きく動かずに顔を動かし,道具のある位置を確認していた.また,柄杓を体の前で構えた時,棗を膝の前に移動した時,礼をした時に動作が静止する場面が見られた.これらのことから,姿勢を大きく崩すことなく,道具を取りに行く部位のみが大きく動いていたことから無駄がない動き・美しい姿勢につながるのではないかと考えられる.