抄録
<目的>ベトナムの衣服調査から、ベトナムの農村部の主に高齢者が着用、所持しているアオ・トゥー・タン(茶、長衣の上着)やクアン(黒、ズボン)などの古い衣装の染色は、クーナウという塊根を使用して染色していたことがわかった。伝統的な手法で再現し、継承することが望まれるが、クーナウは入手が難しい。 そこで、これらの衣服の色を再現するために、日本でも入手でき、東南アジアでも鉄漿の材料として使用されたビンロウジュを用いて染色することを検討した。
<方法>使用した布は富士絹、綿(ブロード、金巾、ガーゼ、サージ)である。なお、これらの布は染色前に濃色を得るために豆汁に浸して実験に使用した。染色液はビンロウジュの濃度、液のpH、抽出回数を変化して抽出した溶液を用いた。使用した媒染剤は明礬、木酢酸鉄、椿の灰である。染色回数は1回~5回とした。これらの染色布のK/S値、L*a*b*値を測定した。また、これらの染色布の洗濯、摩擦、耐光堅ろう度を検討した。
<結果>ビンロウジュをpH5、7、9に調整した液で抽出した結果pH9で赤味の濃色抽出液となった。豆汁の濃度を0~5%として染色した結果、5%が最も濃色であった。染色結果から、ベトナムの伝統的な衣服に近似した染色条件は、茶色はWガーゼを使用し、ビンロウジュを中性抽出―0.1%の木酢酸鉄で媒染―中性で染色を5回染色する。黒色はサージを使用し、アルカリ性で抽出―0.5%の木酢酸鉄で媒染―中性で染色を5回染色する方法であった。また、これらの染色布の洗濯堅ろう度は2-3級、摩擦堅ろう度は3-4級、耐光堅ろう度は2-3級であった。退色して再現すべき色に近似した色を呈する染色布が認められた。