化石
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琉球列島沿岸海草帯に生息する葉上性有孔虫類の季節変化
藤田 和彦西 弘嗣斎藤 常正
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1999 年 66 巻 p. 16-33

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抄録

熱帯の沿岸海草帯に生息する葉上性有孔虫類の季節変化を明らかにするために, 琉球列島伊良部島の沿岸付近に分布する海草帯で, 約1年間海草試料を採集して, 有孔虫群集の構造やその季節変動を解析した.海草帯の葉上性有孔虫群集は主に石灰質殻有孔虫で構成されており, 年間を通して葉上生活者のCalcarina calcarが優占することで特徴づけられる.有孔虫の生息密度は, 2月から3月(冬から春)にかけてと11月(秋, あるいは秋から春)の時期に増加し, 7月から10月(夏から秋)まで激減する.群集の種構成, 多様性, 生活型, 殻サイズに関しても, 季節による違いが明瞭にみられる.Calcarina calcar以外では, 冬から春にかけては膠着生活者のHauerina pacificaやLamellodiscorbis sp, 自由生活者のVertebralina striata.および付着可動生活者のGlabratella millettiiが相対的に増加し, 秋は自由生活者のQuinqueloculina seminulum, Q. semireticulosa, Bolivina striatulaや膠着生活者のCymbaloporetta planaが増加する.一方, この海草帯の優占種であるC. calcarの個体群動態は, この葉上性有孔虫群集の季節変化に大きな影響を及ぼす.生殖室をもつ個体の数や小型個体の増加から, この種は主に春に無性生殖を行っていると推定される.このような海草帯における葉上性有孔虫類の季節変化は, 海草上の餌量の変化や海草帯付近における海水特性の変化など, 海草帯に特有の環境要因の変化に原因があると考えられる.その原因は特定できていないが, 夏季の海草帯は葉上性有孔虫類にとって厳しい生息環境になるようである.今後は海草帯の葉上性有孔虫類の生息密度に影響を与える環境要因を検討していく必要がある.

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© 1999 日本古生物学会
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