抄録
日本語には,「もちもち」,「カリカリ」,「シャキシャキ」
などといった,食品テクスチャー(食感)を表す言葉が豊
富に存在し,食感は食品のおいしさを左右する重要な要
素である.また,咀嚼時には歯根膜,舌口蓋粘膜,閉口
筋筋紡錘で食品テクスチャーを感知し,咀嚼力や咀嚼リ
ズムを調節している.嚥下時には,食塊が嚥下可能なテ
クスチャーかどうかを判断することにより,安全な嚥下
を可能にしている.このように,食品テクスチャー認知
は,摂食嚥下過程においても重要な役割を担っている.
しかしながら,これまでの食品テクスチャー研究は主に
機器による物性測定やヒトの官能評価に依存しており,
末梢でのテクスチャー刺激の受容や,認知に関わる神経
回路といった生理学的メカニズムの解明は進んでいない.このように食感認知研究が進まない要因として,動
物実験系を用いた食感認知の評価が困難であることが考
えられる.
筆者らは,味認知の影響を排除した条件下で,ラット
を用いた食品テクスチャー認知評価系の構築を試みてき
た.これまでに,嫌悪および嗜好条件付け学習試験を応
用することで,粘度,弾力性,硬さ,微粒子の認知が可
能であることを実証しており,本総説ではこれらの実験
系を紹介する.今後は,神経活動の可視化や操作と組み
合わせることにより,口腔感覚情報の中枢処理メカニズ
ムの全容解明が期待される.