2024 年 198 巻 S 号 p. S71-S86
人的資本経営の推進の背景には,サービス経済化の急速な進行に伴う企業の既存の持続的経営パターンへの変革要請がある。その変革は従業員を「資産」ではなく「資本」と看做すこと,より正確には企業経営視点ではなく従業員の自律性を尊重した人材活用への転換を中核として具体化される。本稿の目的はこうした人的資本経営の本質に立脚し,変革を促進する概念フレームワークを提示することである。その概念は,サービス経営における人的資本の重要性を認識する北欧学派の価値共創ロジックを基礎とし,更にそれを補強,拡張して活用する。すなわち人的資本の概念を「自然人」としての従業員及び顧客,そして「法人」としての企業に拡張し,これらの有機的機能に焦点を当て三者鼎立体制による企業価値創造の新たな基盤を示すと共に,そこで求められる雇用システムの変革について具体的構想を提案する。