日本健康教育学会誌
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「健康教育研究」研究会最終報告 (その1)
宮坂 忠夫
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2007 年 15 巻 1 号 p. 33-66

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抄録

(1) 研究の目的としては, ニーズアセスメント, 健康教育プログラムの開発, 介入実験等研究者自身が実施した調査あるいは健康教育プログラムに関するものが多く, 効果的な健康教育の実践という観点から重要なものばかりである.一方, 理論やモデルの構築等理論的なものは少ないが, 健康教育学の総合性, 実践性を考慮すれば当然といえよう.
(2) 研究のデザインについては, 横断研究, 対照群のない前後比較, 事例研究, 介入研究 (RCTではないが対照群あり) が多いが, 研究の目的との関係では, 目的に対応して選ばれている.健康教育の実践にかかわる典型的な介入実験では, 介入研究 (対照群あり) , 対照群のない前後比較, 介入研究 (RCT) が主であるが, このような研究が一層実施されることが望まれる.
(3) 研究・調査の方法としては, 方法が一種類のみが約7割を占めていて, 集合調査, 配票調査, 郵送調査等比較的に実施しやすい方法が多い.これは調査方法の信頼性と妥当性に留意する必要があることを示していると思われる.2種類以上の組合せは大変多種多様で, 方法に対する発想が自由といえよう. 研究のデザインとの関連でも, 方法について種々工夫がなされていると思われる.しかし, デザインが事例研究の場合, 方法としてききとり, 集合調査や質問紙面接法が含まれていて, 「事例」や「ききとり」という用語が様々に解釈されているのかと思われる.
(4) 健康教育の基礎になっている理論・モデル・構成概念については, 大変古いモデルであるKAPモデルが最も多く, 次いで社会的学習理論, エンパワメント, 住民参加, セルフエスティーム, トランスセオレティカル・モデル, ソーシャルサポート, プリシード・プロシードモデル, 地区 (地域) 診断等である.これらは, 研究の目的として, 健康教育プログラムの企画・実施・評価に関連が深い.健康教育プログラムの開発や介入実験においても同様である.なお, 敢えて付言すると, それぞれのモデルがどのように理解されているかという問題があろう.
(5) 研究の健康・生活上の分野については, 回答数がきわめて多く平均2回答である.健康づくり, ヘルスプロモーション, 食生活・栄養, 生活習慣病, 運動・休養等, 日常生活と健康に関するものが圧倒的に多く, この点は研究のデザインに拘らず, おおむね同様である.
(6) 研究の主な領域は, 保健については地域, 学校, 産業の順に多かったが, 健康教育または研究の場もほぼこれに対応して, 都市部, 農山村, 保健・医療機関 (計49%) , 大学 (短大・専門学校を含む) , 中学校・高等学校, 小学校 (計41%) , 企業 (12%) の順である.
(7) 研究の対象者としては, 児童・生徒, 学生, 成人, 地域住民, 専門職, 企業の従業員が多く, また研究の目的に応じて種々様々であるが, 対象者を選ぶ際の容易さや正確さがかかわっていると思われる.
(8) 健康教育の内容および健康教育の方法は, ともに「健康教育は含まれていない」が約2割ある一方, 「含まれている」の回答は約2倍弱で相当多い. 健康教育の内容としては, 態度・行動変容のための教育, 知識・情報の提供, 対象者の健康問題の教育, ライフ・スキルの教育が多いが, この傾向は研究の目的にかかわりなく, ほぼ同様である. 健康教育の方法としては, 以前からよく行われてきた講演・講義等の集団教育と個別教育 (指導) が大変多いが, グループワークや参加型教育, 実習も少なくない.研究の目的との関連でみると, 介入実験等で特にグループワークや参加型教育が多い場合を除き, この傾向はほぼ同様である. 健康教育の内容と方法との関係については, 態度・行動変容と知識・情報の提供の場合, ともに方法は全体の傾向に類似していて, 両者の問にあまり差がみられない.ただしライフ・スキルの教育等内容が異なると方法にも違いがみられる.
(9) 年次別の傾向では, 今回は年次による一定方向の顕著な変化はとらえられなかった.しかしながら, (1) 研究の目的, デザインの部分で, 介入研究, 特にエビデンスレベルの高い研究へのシフトの兆しがみられること, (2) 理論・モデル・構成概念を用いた研究が多様に展開されていること, (3) 健康教育技法は技術革新の普及にも大きく影響されており, 今後もそうした傾向は続くであろうこと, などがわかった.

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