日本健康医学会雑誌
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原著
食餌性リン酸塩の化学形態およびリン濃度がラットの腎臓石灰化およびミネラル出納に及ぼす影響
細見 亮太中澤 知奈美萩原 希福永 健治吉田 宗弘
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2020 年 29 巻 1 号 p. 27-38

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抄録

食品添加物に用いられている無機リン酸塩は,大きく分けて正リン酸塩と重合リン酸塩に分けられる。これまでに高用量のリン(P)摂取による腎臓石灰化と腎機能低下について数多くの報告がなされているが,摂取するリン酸塩の化学形態の違いに着目した報告は少ない。そこで本研究では,餌料中のリン酸塩の化学形態およびP濃度の違いによるラットのPおよびカルシウム(Ca)出納,腎臓の石灰化,腎P, CaおよびビタミンD代謝関連遺伝子発現量に及ぼす影響を検討した。被験動物として4週齢Wistar系雄ラット24匹を用い,6匹ずつ4群に分けた。餌料のP源としてリン酸二水素ナトリウムとトリポリリン酸ナトリウムの2種類を用いて,正常P餌料(0.3%w/w, それぞれNP群およびNTP群)と高P餌料(1.5%w/w, それぞれHP群およびHTP群)をそれぞれ2種類ずつ調製した。飼育開始18日目から3日間,代謝ケージを用いて,糞と尿を分離採取し,これらのPおよびCa濃度を測定した。飼育開始21日目に常法により採血し,腎臓を採取した。腎臓については,PとCa濃度,組織学的観察,遺伝子発現量を測定した。高P餌料(HPおよびHTP)給餌群では,正常P餌料(NPおよびNTP)給餌群と比較して腎臓の重量,PおよびCa濃度の有意な増加がみられ,またVon-Kossa染色による観察結果から腎臓の石灰化が起きていた。さらに高P餌料給餌群では近位尿細管の障害指標である尿中N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ活性も有意に高かった。一方,HTP群ではHP群と比較して腎臓のPとCa濃度,および腎石灰化度合いが有意に高く,給餌するリン酸塩の化学形態の違いによる差異がみられた。正常P餌料給餌群と比べ,高P餌料給餌群は尿へのP排泄が有意に高く,また腎ナトリウム依存性リン酸トランスポーター遺伝子(Slc34a1およびSlc34a3)発現量も有意に低下していた。そのため,高P餌料給餌群では近位尿細管でPの再吸収を担うSlc34a1およびSlc34a3遺伝子発現を抑制することで尿へのP排泄が高まったと考えられる。さらに,尿細管でのカルシウム再吸収を担っているCacna1i遺伝子発現量は,HP群と比較し,HTP群で有意な低値を示した。以上のことから,高P摂取による腎臓の石灰化は,P濃度だけでなく摂取するリン酸塩の化学形態の影響も大きいと示唆された。

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