日本健康医学会雑誌
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Print ISSN : 1343-0025
原著
餌料中トリポリリン酸ナトリウム濃度の違いがラットの腎臓石灰化およびミネラル出納に及ぼす影響
細見 亮太中澤 知奈美萩原 希福永 健治吉田 宗弘
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2020 年 29 巻 2 号 p. 208-218

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抄録

近年,調理食品の利用が増加しており,これに食品添加物として使用されている無機リン酸塩によるリン(P)の過剰摂取が懸念されている。食品添加物に用いられている無機リン酸塩は,正リン酸塩と重合リン酸塩に分けられる。これまでに私たちはラットに高P餌料(餌料中P濃度1.5% w/w)を給餌した場合,正リン酸塩をP給源とする餌料を給餌した群に比べ,重合リン酸塩(トリポリリン酸ナトリウム)をP給源とする餌料を給餌した群では,腎臓の石灰化および腎機能低下の度合いが重度であることを報告している。これまでに重合リン酸塩であるトリポリリン酸ナトリウムを用いて異なるP濃度になるように調製した餌料をラットに給餌し,Pおよびカルシウム(Ca)出納に及ぼす影響を検討した報告はない。そこで本研究では,トリポリリン酸ナトリウムを用いて異なるP濃度に調製した餌料をラットに給餌し,PおよびCa出納,腎臓の石灰化,腎P, CaおよびビタミンD代謝関連遺伝子発現量に及ぼす影響を検討した。被験動物として4週齢Wistar系雄ラット30匹を用い,6匹ずつ5群に分け,P濃度が0.3%,0.6%,0.9%,1.2%または1.5%になるようにトリポリリン酸ナトリウムを用いて調製した餌料を給餌した。飼育開始18日目から3日間,代謝ケージを用いて,糞と尿を分離採取し,これらのPおよびCa濃度を測定した。飼育開始21日目に常法により採血し,腎臓を採取した。餌料中P濃度1.2%以上の餌料を給餌した群において,餌料中P濃度0.6%以下の餌料を給餌した群と比較して,腎臓の重量,PおよびCa濃度の有意な増加,また腎臓の石灰化が観察された。さらに餌料中P濃度1.2%以上の餌料を給餌した群では,近位尿細管の障害指標である尿N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ活性および血清クレアチニン濃度が他の群と比較して有意に高かった。餌料中P濃度0.9%以下の餌料を給餌した群と比べ,餌料中P濃度1.2%以上の餌料を給餌した群は尿へのP排泄量が有意に高く,また腎ナトリウム依存性リン酸トランスポーター遺伝子(Slc34a1およびSlc34a3)発現量も有意に低下していた。以上のことから,トリポリリン酸ナトリウムを用いて餌料中P濃度を段階的に0.3%(w/w)から1.5%(w/w)に調製した餌料をラットに給餌したところ,餌料中P濃度1.2%以上において,腎臓の石灰化といったP恒常性維持機構の崩壊させることが示唆された。

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