抄録
【はじめに】
今回、我々は中心性頚髄不全損傷による両下肢の麻痺に対し長下肢装具を作成し、歩行能力を再獲得した1症例を経験したので報告する。
【症例および経過】
症例は43歳男性。2007年8月27日午前9:00頃、船上で誤って1m程下の甲板に転落。直後より四肢が動かなくなったためドクターヘリを要請し、当院救急外来に搬送される。来院時、意識清明、呼吸困難なし、左右上下肢ともMMT 0/5、知覚はTh2以下で低下。中心性頚髄不全損傷の診断にて、同日、入院となる。ソルメドロールにて保存的治療。元々、脊柱管の狭窄があった。8月28日、廃用症候群予防のためリハビリテーション科紹介。同日、ベッドサイドにて理学療法開始。9月6日、介助による起立訓練開始。9月11日、両長下肢装具装着にて歩行訓練開始。9月20日、プライムウォーク装着にて歩行訓練開始。10月1日、両長下肢装具処方(膝継手:3 way、足継手:クレンザック、プライムウォークは不使用)。10月4日、両長下肢装具完成。10月25日、頚椎後方椎弓形成術を施行。11月14日、急性硬膜外血腫の診断にて血腫除去術を施行。11月16日、歩行訓練再開。11月27日、膝継手のロック解除にて歩行訓練開始。12月17日、両短下肢装具にて歩行訓練開始。12月27日、装具なしでの歩行訓練開始。階段昇降訓練開始(訓練用階段にて、昇段は1足1段、降段は2足1段)。2008年1月7日、転院。
【考察】
一般に、中心性頚髄不全損傷は、上肢に比べ下肢機能の改善が見込まれる。本症例においては、歩行能力の改善を目標に、早期より長下肢装具を装着しての歩行訓練を開始した。結果、転院前には介助は要するものの、装具なしでも歩行可能なレベルまでの改善をみた。これには、Central pattern generatorの関与も考えられる。将来的には、車いすの併用が必要であると考えられるが、患者のQOLと意欲の惹起のためにも長下肢装具による早期からの歩行訓練は有効であったものと考えられる。今後も、さらに装具療法と理学療法を発展させる必要がある。