近畿理学療法学術大会
第49回近畿理学療法学術大会
セッションID: 43
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パーキンソン病患者における後進歩行前後の姿勢制御の変化
*二階堂 泰隆佐藤  久友高山 竜二大野 博司佐浦 隆一
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抄録

【目的】
 パーキンソン病(以下PD)患者特有の前傾姿勢の要因は、重心の後方変位が関与しており、治療の1つに後進歩行が提唱されている。後進歩行は伸筋群の活動、最大歩行速度や重複歩距離、前傾姿勢などに影響を与えるが、その原因については不明である。今回、前屈姿勢を呈するPD患者1症例に対し、後進歩行前後の即時的な姿勢及び姿勢戦略の変化を検証した。
【症例紹介】
 59歳男性のPD患者。発症後約2年経過し、Hoehen&Yahr重症度分類Stage3である。左上下肢優位の振戦、筋固縮を認め、軽度の前屈姿勢を呈していた。動作では加速・突進歩行・動作緩慢を認めていたが、著明にバランスを崩すことなく独歩可能であった。
【方法】
 後進歩行は快適速度で5分間実施した。評価は後進歩行前後に、1)静止立位、2)Functional Reach(以下FR)、3)クロステストをそれぞれ3回測定した。測定には三次元動作解析装置(VICON460)と床反力計(AMTI)を用いた。マーカーは第7頚椎、第10胸椎、左右の手関節中央、肩峰、股関節中心、膝関節中心、外果、第5中足骨頭に貼付けした。静止立位は身体重心(以下COG)・足圧中心(以下COP)と各マーカーの距離を、FRはリーチ距離とCOG・COP移動距離・下肢関節モーメントを、クロステストはCOG・COP移動距離を算出した。前後方向のCOGは外果マーカーを、左右方向のCOG・COPは第5中足骨頭マーカーを基準としてその距離を算出した。なお患者には文書にて本研究の主旨を説明し同意を得た。
【結果及び考察】
 静止立位は後進歩行後のCOGが20mm後方へ移動し、COPも右側が後方へ13.5mm、左側が後方へ33.8mm移動し、前傾姿勢が軽減した。FRは大きな変化はなかったが、下肢関節モーメントは後進歩行後、右股関節伸展モーメントが34±0.4Nmから29.1±0.6Nmへと減少し、右足関節底屈モーメントが59.1±0.6Nmから63.0±0.6Nmへと増大した。これらは前傾姿勢の軽減により、股関節によるバランス制御の割合が減少し、足関節によるバランス制御の割合が増加した結果、姿勢制御が変化したものと考えた。クロステストは左右方向への移動に変化はなかったが、前後方向のCOG・COP最大移動が増加し、COGの前方が51.56mmから73.88mmへ、後方が36.25mmから42.01mmへと変化した。COPも右足前方69.65mmから101.29mmへ、右足後方が33.35mmから35.34mmへ、左足前方が29.43mmから56.49mm、左足後方が49.69mmから57.15mmへと変化した。これはCOG・COPが後方移動した結果、前方への移動に余裕が生じたものと考えた。
以上により、PDでは後進歩行により、バランス制御に関わる前後方向への余裕が生じた結果、即時的に前傾姿勢と前方へのバランス能力の改善が生じた可能性が示唆された。

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© 2009 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
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