近畿理学療法学術大会
第50回近畿理学療法学術大会
セッションID: 117
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視神経脊髄炎を呈した症例に対し体幹の固定作用に着目した取り組み
*中原 健次髻谷 満古川 徹森下 慎一郎眞渕 敏藤原 大(MD)児玉 典彦(MD)道免 和久(MD)
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抄録

【はじめに】
 視神経脊髄炎(Neuromyelitis optica;以下NMO)は視神経炎と横断性脊髄炎を呈する神経難病である。一般的にNMOは多発性硬化症と比較して臨床症状はより重度であり,横断性脊髄炎による対麻痺あるいは四肢麻痺,感覚障害,排尿障害などを呈する。今回,対麻痺とTh5以下の感覚障害が生じ,起居・移動動作が困難であった症例に対し,体幹機能に着目して起居動作能力の向上を目標に理学療法を行った。
【症例紹介】
 52歳女性。診断名:NMO再発。現病歴:X年Th5以下の感覚障害と入浴後の四肢脱力や全身倦怠感が出現し,その後自然寛解した。X+3年3月より頚部の電撃痛と左上肢のしびれが出現し,入浴後の四肢脱力症状が増悪した。6月2日両下肢に脱力が出現。6月3日より歩行困難,排尿障害が出現し,6月4日当院に緊急入院となった。翌日よりステロイドパルス療法,血漿交換療法が施行され,6月8日より理学療法開始となった。
【理学療法初期評価 X+3年6月8日】
 MMT:右股関節1,膝関節1,足関節1,母趾MP1,その他0,左股関節1,その他0,体幹1。両下肢腱反射消失,両側Babinski反射陽性。表在感覚:Th5以下重度鈍麻。運動・位置覚:軽度鈍麻。振動覚:脱失。ADL:FIM59点。寝返り,起き上がり:物的介助。端坐位:上肢補助で可能。長座位,立ち上がり,立位,歩行:不可。Uhthoff's現象(+)。
【理学療法プログラムおよび経過】
 血漿交換療法中は症例の臥床傾向が予測された。そのため,チルトテーブルを利用した起立性低血圧の改善や,低周波療法による残存筋の収縮を促した。動作観察において,体幹背面筋を優位に活動させ体幹の安定性を作り出す代償動作が認められた。そのため,血漿交換療法終了後は代償動作を抑制した上での起居動作練習や腸骨大腿靱帯のロックを解除した股関節中間位での運動を行った。アプローチに際しては,送風によるUhthoff's現象の抑制や,過負荷による症状悪化を防止するために自覚症状や体温を確認しながら動作練習を行った。その結果,徐々に症状は改善し,動作レベルは起居動作自立まで至った。
【理学療法最終評価 X+3年7月13日】
 MMT:右股関節2,膝関節3-,足関節4,母趾MP4,左股関節2-,膝関節1,足関節1,その他0,体幹屈曲2。両下肢腱反射2+,両側Babinski反射陽性。表在感覚:Th5以下中等度鈍麻から重度鈍麻。運動・位置覚:正常。振動覚:脱失。ADL:FIM72点。寝返り,起き上がり,端坐位,長座位:自立。立ち上がり:平行棒内軽介助レベル。立位保持:平行棒内修正自立。歩行:不可。Uhthoff's現象(+)。
【考察】
 本症例に対する短期目標を起居動作能力の向上,長期目標を歩行の獲得とした。本症例においては体幹背面の筋を優位に活動させて体幹の安定性を作り出す傾向が認められた。この頚部および体幹伸展の活動は,腹筋群の活動性を低下させ,動作に必要な体幹の分節的な運動を阻害することで,立位や歩行に影響を及ぼすことが予測された。そのため,本症例に対して急性期から代償動作を抑制した上での,体幹の固定作用を向上させることが重要であると考えた。
 動作観察において,本症例の寝返りや起き上がり動作では,体幹伸展筋を優位に活動させて体幹の固定を作ることにより,胸郭から骨盤にかけての分節的な運動が欠如していた。そのため,理学療法を行う上では頸部の屈曲を促し,体幹屈曲筋の姿勢筋緊張を高めるようなアプローチを行った。その結果,背面筋の活動と共に腹筋群の活動を伴った体幹の固定作用を向上させることができた。さらに,体幹の回旋運動を反復練習することにより,協調のとれた体幹の分節的な運動が可能となり,起居動作の自立に繋がったと考える。
 一方,本症例に対して早期より骨盤帯付長下肢装具を用いた立位を経験させ,股関節を中間位にコントロールした動的な支持練習を行った。その結果,起居動作練習を通じて獲得した腹筋群の活動を伴う体幹の固定作用が立位姿勢においても反映され,立位保持能力の改善に繋がったと考える。
 NMOは多発性硬化症の症状と脊髄損傷の機能障害を併せ持った臨床的特徴を有する。そのため,本疾患に対しては脊髄損傷に対する動作アプローチと,多発性硬化症のUhthoff's現象を予防した理学療法の取り組みが必要となる。そのため,本症例のUhthoff's現象に対するリスクネジメントと代償動作を抑制した動作獲得の練習過程は,長期目標である歩行獲得に効果的に繋がっていくのではないかと考える。

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© 2010 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
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