近畿理学療法学術大会
第50回近畿理学療法学術大会
セッションID: 119
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前を向こう
-右片麻痺者の歩行場面の一考察-
*金子 大介
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抄録
【はじめに】
 普段、我々が移動(歩行)を行う際、目的活動に向けた姿勢コントロールの下で遂行される。しかし、中枢神経系障害を呈した方では移動が目的活動となり、身体は緊張し身構えた姿勢コントロールとなってしまう場面が見られる。
 今回、脳梗塞により右片麻痺を呈した症例の歩行場面では視線を下方に向け恐る恐る足を出す事に精一杯という印象を受ける。そこで、股関節からの姿勢コントロールに着目した介入により歩行時の安定性が改善し、視野の拡大が得られたので以下に考察する。発表に際し、症例には趣旨を説明し同意を得た。
【症例紹介】
50歳代、女性。平成19年に脳梗塞(右片麻痺)発症、翌年12月に脳梗塞(右片麻痺)再発。他院にて入院の後、平成22年2月に加療目的のため当院転院。同年4月PT担当者変更。
日常生活にてADLは左手のみでほぼ自立可、T-cane歩行である。二度の脳梗塞により自信を無くし欝傾向にあり、表情乏しく外部への関心が薄くリハビリ中は悲観的な会話が多い。
【理学療法評価】
Br-stage:上肢_III_、手指_IV_、下肢_IV_
感覚検査:麻痺側上下肢に軽度鈍麻有り
10m歩行:37step、58sec
特徴的運動パターン:歩行場面は麻痺側立脚期中、骨盤は麻痺側回旋・麻痺側へ偏位させ麻痺側外側構造で支持を得ている。T-caneにて体側より離れた位置で支持面を押し、非麻痺側肩甲帯で受け止め腰背部での固定を強めている。骨盤の前方移動が起きない事で、推進力が得られず振り出すために体幹を後方へ倒し振り子状に下肢を前方に出している。そのため、麻痺側肩甲帯は挙上・外転を強めている。視線は下方を向く。過緊張部位は頚部・腰背部・大腿外側部・膝窩部に認められる。
【治療展開】
 背臥位・立位・ステッピング・台昇降と展開していく。背臥位にて麻痺側下肢プレーシングを行い股関節周囲筋の筋緊張の調整をし、ブリッジ活動にてハムストリングスの筋緊張を高め立脚初期での安定性が得られるよう支援した。立位にて腹圧の調整を行う事で、腹部前面と腰背部との相反関係の調整を期待した。この頃より表情変化あり余裕が伺えたため、ステッピングにて骨盤の回旋を制御しながら骨盤の前方移動を誘導した。台昇降にて骨盤をキーポイントに非麻痺側下肢から麻痺側下肢へ重心を足部に留めながら大腿骨上を骨盤が滑る動きをイメージしながら骨盤の前方移動を誘導した。また、ステッピングと同じく骨盤の麻痺側回旋を制御して行う。
【結果】
10m歩行:32step、50sec
腰背部での固定が外れ、骨盤の側方偏位は減少し体幹は直立位を保持できている。T-cane位置が体側に近づき、視線は前方を向き肩甲帯の引き上げが減少した。歩幅の拡大、歩行速度の若干の向上が見受けられた。治療後では「右足がしっかりと床を踏んでいられます」と表現されるようになりチャレンジをしていく姿勢が見られるようになる。また病棟では、廊下ですれ違う他の患者様・スタッフと笑顔で挨拶をされる姿が見られるようになった。
【考察】
 柏木は「下肢がしっかりと大地を踏みしめて、その上に適切に身体を乗せていくことが運動の安定につながっている」と述べている。症例は、歩行場面において外側構造に頼り、身体内部での固定を強めた姿勢を呈していたと考える。そのため、床反力を股関節で受け止められず、視覚での代償も用いて安定を得ようとしていたと考える。そのため、台昇降を用いた治療を行った事で、床反力情報を股関節まで投影できたと考える。そのため、外側構造からの離脱に繋がり、腰背部での固定が減少し姿勢コントロールの改善が得られたと考える。加えて、麻痺側上肢の過活動が減少した事で体幹との相互関係が取れるようになり、T-caneへの依存が減少したと考える。これらの事から視覚による代償が外れ頭頚部は前方を向き、歩行中周りを見渡せるようになったと考える。結果として、歩幅・歩行速度の改善に至ったと考える。
【理学療法研究の意義】
 今回、姿勢コントロールの調整における股関節の重要性を改めて認識した。そこで、中枢神経系障害に対する床反力情報の知覚について臨床を通して検証していく事が、今後さらに効果的な治療方法となるのではないかと考える。
【おわりに】
最後に発表に際し、快くご了承下さった患者様と、お忙しい中ご助言を頂いた当院先生方に深く感謝いたします。
【参考文献】
1)柏木正好:環境適応第2版
2)柏木正好:柏塾ノート 2009年度までの講義録
3)Berta Bobath:片麻痺の評価と治療原著第3版
4)第22回活動分析研究大会誌
著者関連情報
© 2010 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
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