近畿理学療法学術大会
第50回近畿理学療法学術大会
セッションID: 98
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ウォーミングアップが運動に及ぼす影響について
-呼気ガス分析装置を用いた検討-
*加島 知明藤野 文崇酒井 桂太田中 直樹岩見 大輔三原 修
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抄録
【目的】 ウォーミングアップ(以下W-up)がパフォーマンス向上に寄与していることは広く知られている。しかしW-upの明確な定義はなく、研究によりW-upの方法、強度は様々である。またW-upの効果に関する報告の多くは自転車エルゴメーターやトレッドミルを使用したものであり、歩行を用いた研究はほとんどない。本研究ではW-upとして歩行を実施し、主運動は近年簡易的運動耐容能評価法としてプロトコルが標準化され信頼性や妥当性が確立されているシャトルウォーキングテスト(以下SWT)を実施し、W-upが運動に与える影響について呼気ガス分析装置を用いて検討する。 【方法】  現在呼吸器疾患及び整形外科的疾患に罹患していない男子大学生9名(年齢:20.8±1.20歳、身長:171.6±7.52cm、体重:61.6±4.10kg)を対象とした。 W-upの効果の検討手順としては、携帯型呼気ガス代謝モニター(METAMAX 3B:CORTEX社製)を装着しSWTを実施した。1時間以上の休憩をとった後、再び携帯型呼気ガス代謝モニターを装着しW-upとして3分間の自由歩行を実施し、5分間の休憩後再びSWTを実施した。なお対象者には予備実験として予め1回以上SWTを経験して頂いた。 統計処理はW-upの有無によるSWTの結果においてはt検定、ウィルコクソン符号付順和検定を用い、p<0.05を統計学的に有意とした。 【説明と同意】 本研究は大阪河崎リハビリテーション大学の倫理委員会の承認(承認番号OKRU21学1147)を得たうえで口頭および書面による同意を得られた学生を対象として行った。 【結果】  対象者9名におけるSWTの結果は、W-up実施前では82.0±11.02シャトル、W-up実施後では87.6±10.55シャトルでありシャトル数(歩行距離)に有意な増加を認めた。  呼気ガス代謝モニターによる炭酸ガス排出量と酸素摂取量の分析の結果は、SWT開始時からW-up実施前後における同シャトル時(コントロール時の最大シャトル時)において有意な差は認められなかった。しかしSWT終了前100秒間の炭酸ガス排出量は、W-up実施前では1.94±0.27ℓ/min、W-up実施後では1.82±0.18ℓ/minであり、W-up実施後に有意な減少を認めた。また、酸素摂取量においてもW-up実施前では2.30±0.29ℓ/min、W-up実施後では2.15±0.18ℓ/minであり、W-up実施後に有意な減少を認めた。
【考察】W-up実施前後の比較ではシャトル数の有意な増加を認めた。これはW-up実施によりパフォーマンスが向上するという形本らの報告と同様の結果が得られ、W-upの効果として知られている筋温上昇による筋の代謝効率の上昇、呼吸循環系の応答性の向上が関与していると考えられた。 今回呼気ガス代謝モニターを用い炭酸ガス排出量と酸素摂取量を調査した結果、SWTの同シャトル時においてW-up実施後で有意な減少を認めた。このことに関して、久野は高強度運動時においてはNADH(NADの還元型)の増加に伴い、酸素摂取量が低下することを述べている。さらに形本はW-up実施による皮膚血流の減少が作業筋への血流を増加させ、速やかな心拍出量の増加を導き最大運動時において代謝効率の改善があると報告している。本研究においても形本らの報告と同様に運動時の代謝効率の改善により運動時炭酸ガス排出量や酸素摂取量の増加を抑制することができ、SWTにおけるシャトル数増加に影響を及ぼしたと考えられた。 【理学療法学研究としての意義】 本研究から、少ない対象者数においてもW-up実施によりパフォーマンス向上は従来の報告と同様の傾向がみられた。今回呼気ガス代謝モニターを用い炭酸ガス排出量、酸素摂取量を調査した結果、W-up実施により運動時の炭酸ガス排出量や酸素摂取量の増加を抑制することができると示唆された。
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© 2010 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
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