2015 年 20 巻 p. 81-103
日本の英語教育が、ディスカッション、ディベートなどを含むコミュニケーション重視の授業
に転換してから久しいが、日本の文化的背景から、このような学習者主体の授業の実践は容易で
はなく、いまだ授業では、従来の暗記型の要素が強いことが否めない。文科省では小中高を通し
ての論理的・批判的思考力の養成の奨励がなされ、英語においても、詰め込み教育、受け身の教
育では果たせない、自ら考える力、論理的・批判的思考力を育み、併せて四技能に配慮した統合
的なコミュニケーション能力の育成が促進されている。同時に、これらの能力を育成することで、
英語での発信力の養成が可能となる。このための新しいアプローチとして、
「内容重視の教授法」
(Content-based Instruction:以下CBI)の授業の提案がある。CBIには「年齢相応の思考力を伴う
言語発達の必要性」を説くバイリンガリズムの観点から「言語発達には思考力と言語力の両輪が
必要である」という基本概念がある。
「仕事で英語が使える」
人材育成の出口である大学英語教育の役割はますます重要となる。
とり
わけ、専門課程に入る前の初年次英語教育では、CBIのように「数学」や「生物学」などの教科の
教育と言語教育を統合した英語教育が、
「英語」
の授業や選択制の専科の授業で取り入れられるこ
とが必要となってくるであろう。
本研究は、CBI発祥の地であるアメリカの高等学校CBI-ESLの授業の参与観察から、日本での
応用を、特に大学での実践を考慮し提案するものである。米国の現地校の授業の参与観察により、
以下の点が日本でCBIの授業を導入する際に提案される。1)各課ごとに「教科(内容)目標」と
「言語目標」を定め、言語指導では教科学習に必要な語彙や表現と同時に、
「学習スキル」を養成
する。2)インプットとアウトプットのバランスを考慮し、四技能を統合的に取り入れる。3)「評
価の基準(ル―ブリック)
」の効果的使用。使われる発問は、自分の答えを証拠の裏付けをしなが
ら論理的に述べる本質的な質問(essential questions)であること。4)これらを協働学習を通し
て行う。