北里大学一般教育紀要
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原著論文
帝政末期ロシアにおける女子職業教育の拡張と社会
-ロシア技術協会の女子職業教育事業を中心に-
畠山 禎
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2017 年 22 巻 p. 17-42

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抄録

 19世紀後半のロシアでは、初等・中等・高等教育の諸領域で教育改革が打ち出された。しかし、政府による職業教育システム構築の試みは限定的で、国民教育省やその他省庁により創設・運営された教育機関の数は少なかった。職業教育、とりわけ女子職業教育の伸張は「非国家セクター」の団体や個人の精力的な活動によるところが大きかった。本研究では、19世紀後半のロシアを代表する科学技術団体であるロシア技術協会の女子職業教育普及活動を追跡した。活動の目的、内容、成果を検証し、女子職業教育の拡張における同協会の活動の意義について考察した。また、その過程で女子職業教育活動家によって展開された、女性の家事労働や賃労働、女子職業教育機関の目的や教科をめぐる議論を分析した。

 ロシア技術協会は19世紀後半~20世紀初頭の女子職業教育運動を主導し、女子職業教育の量的拡大と質的向上に大きく貢献した。協会は女子職業(手工業)学校・課程一般規定案を作成し、他の団体や個人による女子職業教育機関の開設や運営を支援し、手芸教員を養成し、ロシア技術・職業教育活動家大会を開催するなど「教育システム」の基盤を整備した。

 教育活動家は、家庭における妻や母としての女性の役割と結びつけながら、女性職業教育機関の目的や教科について議論した。女子職業(手工業)学校・課程一般規定案は女性職業教育機関の目的を家庭生活に有用で、未婚や死別などの事情による独身の場合にも独力で収入を得ることのできる知識や手工業を生徒に教えることに置いた。各種の教科、とくに手芸や手工業が望ましいものとされた。そのような女性職業教育機関の特徴づけが、女性の労働や教育を取り巻く状況の変化に応じて見直しを求められつつも、維持されていくことになる。

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