北関東医学
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症例報告
高度の脊柱後弯症を併存した下部直腸癌に対しての腹腔鏡下腹会陰式直腸切断術の経験
榎田 泰明富澤 直樹岡田 拓久清水 尚荒川 和久安東 立正
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2017 年 67 巻 2 号 p. 153-157

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抄録

脊柱後弯症 (円背) は, 加齢に伴い椎体骨の圧迫骨折や変形, 筋力低下などによって生じるといわれている. 今回我々は, 高度の脊柱後弯症を併存する高齢者の下部直腸癌症例に対して腹腔鏡下腹会陰式直腸切断術を行った1例を経験したので, 文献的考察を加えて報告する. 【症 例】 88歳, 女性. 血便と頻便を主訴に当院を受診した. 高度の脊柱後弯症を認めた. 術前診断は下部直腸肛門管癌 (adenocarcinoma) cT3 cN0 cM0 cStage IIであった. 高度の円背により肋骨弓と骨盤が近接しており, 開腹手術による骨盤底へのアプローチは困難と判断した. 術前シミュレーションを行ったところ気腹により鉗子のworking spaceが確保でき, 可変式カメラの恩恵で視野制限が緩和されると予想し, 腹腔鏡下手術の方針とした. また, 術前のシミュレーションにおいて, ダグラス窩が腹側へ変位していたため腟後壁との剥離操作は会陰側から行う予定とした. 陰圧式固定具 (マジックベッド) を用いて上半身を挙上した状態で固定し, 載石位で手術を行った. 脊柱後弯症に伴い肋骨弓が腹腔内に突出しており, working spaceが狭く小腸の排除は困難であったため, 病期・年齢を考慮して下腸間膜動脈根部周囲の郭清は省略した. 直腸の背側と側方の剥離操作は良好な視野で行うことができた. 腟後壁と直腸との剥離操作は会陰側からの操作を主に行った. 術後経過は良好で, 合併症なく術後24病日に自宅退院した. 脊柱後弯症を併存する高齢者患者において, 腹腔鏡下手術は有用な手段となりうる可能性が示唆された.

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