こころの健康
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学校臨床における母子並行面接の試み
佐藤 いづみ鹿取 淳子
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1998 年 13 巻 2 号 p. 65-71

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抄録

私立学校独自の相談活動を中学・高校において展開し, 3年前より大学の保健センターに所属する筆者たちは, 付属の中・高校の精神保健相談を担当し, 各々週1日学校に出向いている。思春期・青年期のケースでは, 場合によっては二人の治療者による母子並行面接の必要を感じ, 実際にそれを経験する機会に恵まれた。3事例を検討し, 学校における母子並行面接の可能性と限界を考察した。
1. 一人の治療者による並行面接の問題点としては過去に既に議論されてきたように, 1) 一人の治療者を巡る母と子の葛藤激化の可能性, 2) 秘密保持への不信を招き, 子との深いレベルでの情緒交流を困難にさせる, 3) 治療者は子に荷担するあまり母親に批判的となりがちで治療者の中立性が脅かされる, などがあげられる。2. 二人の治療者による並行面接の利点として, 1) 別々の治療者による面接が緩衝材となり母子相互の橋渡しが可能となる, 2) 各々の治療者の違った角度からの視点によってケースの理解が深められる, 3) 母子が共に大学の保健センターに来所するという治療構造は有効であることが経験された。即ち, (1) 子と共に来所することは母親としての意識を高められる。(2) 未発達に止まっている母子交流が, 共に来所することで深められ進展する。(3) 不登校の事例では学校外に相談所があることがメリットになる。3. 学校臨床における母子並行面接の留意点として, 1) 二人の治療者による並行面接は, 母親のニードを的確にとらえた後行う。2) 母親面接の枠に納まらない母親自身の問題が予想される場合や子の問題の内容によっては学校外の医療機関や相談機関に繋ぐこと, あるいはそれとの連携を必要とし, この際学校の現実を踏まえたうえで判断することが肝要である。3) 教職員への精神的サポートや事例に関する理解を関係者が共有できるように心掛ける必要がある。

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© 日本精神衛生学会
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