2017 年 68 巻 p. 31-52
本稿では中国・シンガポール・マレーシアにおける為替制度の最適な移行について議論する。中国は現在,ドルペッグ制を採用しているが,今後,どのような形でバスケットペッグ制または変動相場制といった望ましい為替制度に移行するのが良いか。そして中国が為替制度を徐々に変更していく場合に,シンガポールやマレーシアはどのように為替制度を変更していけばよいか。この二つの問いに答えるために,本稿は小国開放経済を想定し動学的確率的一般均衡モデル(DSGE)を用い厚生関数(損失関数)で評価をする。その中で,現行制度からバスケットペッグ制または変動相場制への移行について複数の移行策を検討する。中国にとっては経済成長(GDPの成長)を安定化させるためにはバスケットペッグ制への漸進的な移行が最適な移行経路となる。シンガポールとマレーシアも徐々に為替制度を移行してバスケット通貨制とすることが,もっとも経済成長を安定化させる結果になることが示された。