2021 年 72 巻 p. 1-33
2018年から始まった米中貿易戦争とそれに続くCOVID-19は,トランプ前大統領による「米国第1」の対中政策によって米中間の対立を劇的に先鋭化させた。貿易赤字から始まった対立は,両国の追加関税の掛合いをエスカレートさせただけではなく,対立事項を知的財産権の侵害,不公正な産業政策,技術覇権問題,国家安全保障上のリスク,人権問題,そして国家の制度・イデオロギー問題などにまで広がった。2021年に誕生したバイデン新政権は台頭する中国を念頭に,民主主義陣営の連携強化に向っている。他方,中国は独力で国内の産業構造高度化を目指し,対外的には「一帯一路」を新たな装いの下で進めようとしている。こうして世界経済は,先端的戦略的産業と企業を中心に2つの陣営が競い合い,別々の経済圏の形成に向うと同時に,新たな経済圏を誕生させる可能性もうんでいる。政治的イデオロギー的対立は激化に向うが,世界経済の領域では,米中両陣営間の競合が「一帯一路」を軸にアフロ・ユーラシア経済のインフラ整備を進めることになるだろう。