抄録
イオン伝導性を示す固体高分子電解質(SPEs)は,既存物質に替わりフレキシブルで薄型の次世代リチウム電池における基幹物質となりうる新しい固体電解質として期待されている.しかしながら,SPE は既存の液体,ゲル,無機系の固体電解質と比べるとイオン伝導度が劣る.固体高分子中で速いイオン輸送を実現するために,筆者は高密度の二酸化炭素流体,特に超臨界二酸化炭素(scCO2)に着目し,そのユニークな溶媒特性を SPE のイオン伝導性改善に活かすことを初めて試みた.その結果,scCO2 処理は Li 塩を含むポリエチレンオキシド(PEO)のようなポリエーテル系電解質のイオン伝導度を著しく増加させた.また,SPE に対する CO2 処理は,イオン伝導性の改善につながるガラス転移温度(Tg)の劇的な低下を引き起こした.さらに,高圧 CO2 中における SPE のイオン伝導挙動を圧力容器中で直接測定した結果,CO2 圧力の上昇に伴うイオン伝導度の増加が認められた.本研究では,CO2 が SPE 中に溶解し,高分子を可塑化させ,さらには系内に存在する凝集イオンの解離を促進する効果を有することが示唆されている.