高分子論文集
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総合論文
π 共役系オリゴマーを用いた有機無機ナノ複合材料の作製
竹岡 裕子
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2010 年 67 巻 8 号 p. 440-446

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抄録

有機無機層状ペロブスカイト化合物は,分子式(H3N-CnH2n-NH3)PbX4(X=I, Br)で表され,構成成分である有機物(XH3N-CnH2n-NH3X)と無機物(PbX2)が自己組織的に超格子構造を形成する興味深い物質である.有機バリアー層と無機井戸層が交互に積層し,層間のバンドギャップ差により無機層領域に安定な励起子を形成することから,優れた非線形光学特性や発光特性を示すことが明らかとなっている.本研究では,種々の π 共役系オリゴマーを層状ペロブスカイト化合物の有機層に導入した有機・無機半導体超格子の作製を検討し,構造解析,および光学特性評価を行い,π 共役系オリゴマーの導入が特性に与える影響を調べた.チオフェン/フェニレンオリゴマーである AETP・HX(X=Br, I),チオフェン/フルオレンオリゴマーである AETF・HX(X=Br, I)を,Grignard カップリング法により合成した.種々のオリゴマーを PbX2(X=Br, I)と複合化し,(AETP)PbX4(X=Br, I), (AETF)PbX4(X=Br, I)薄膜を得た.作製したハイブリッド薄膜の X 線回折の結果,(AETF)PbBr4 膜を除く薄膜において,ブラッグ反射が高次数まで観察され,層状構造の形成が確認された.(AETP)PbI4 膜では 14.7 Å, (AETP)PbBr4 膜では 15.2 Å のピークが観察され,ハロゲン種による層間距離の変化はほとんどないことがわかった.また,(AETF)PbI4 膜では 13.0 Å に基づくピークが観察され,これらのハイブリッド薄膜中において,有機 π 共役系分子は無機層に対して,ある角度をもって配向していることがわかった.(AETP)PbI4 膜,および(AETP)PbBr4 膜の吸収スペクトル測定の結果,室温において 516 nm, 400 nm にそれぞれ鋭い励起子吸収が観察され,AETP を有機層とする層状ペロブスカイト化合物も量子井戸構造の形成が可能であることがわかった.また,(AETP)PbI4 膜では,4 K において 529 nm に励起子に起因する蛍光が観察された.ハロゲン種が異なる(AETP)PbBr4 膜では,450 nm および 500 nm 付近のブロードな発光と,530 nm の強い蛍光が観察された.これは,一般的な臭化鉛系層状ペロブスカイト化合物(400 nm 付近)とは異なる発光特性であり,有機層-無機層間における相互作用の存在が示唆された.また,(AETF)PbI4 キャスト薄膜では,熱処理を行うことにより,(AETP)PbI4 膜と類似した吸収が 514 nm に観察され,より結晶性の高い π 共役種を用いた場合でも,薄膜の作製条件を変えることで量子井戸構造の形成が可能であることがわかった.また,522 nm の量子井戸に基づく鋭い発光とともに,555 nm,および 690 nm 付近にブロードな発光が観察された.発光の時間分解の結果,690 nm 付近のブロードな吸収はオリゴマーによる発光であり,522 nm の励起子に基づく発光と比較して,6 ps 程度遅れて立ち上がることがわかり,励起子からオリゴマーへのエネルギー移動が示唆された.

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© 2010 公益社団法人 高分子学会
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