2016 年 73 巻 3 号 p. 281-293
高分子材料の破壊挙動が複雑な点は,炭素原子間の共有結合と二次的な分子間相互作用が力学応答を支配していることにある.高分子の破壊理論は主鎖の破断強度が実測の破壊強度値に比べて桁違いに高いことをどのように理解するのかということで発展してきた.ガラス状高分子では,内在する固有のき裂やひび割れが起点となって延伸方向に垂直に成長する巨視的クラックやき裂が起こる.結晶性高分子では,破壊の起点の発現は分子や原子レベルの量子論的な分子間相互作用による鎖間の解離によって起こる.いずれにしても,その微視的起点から巨視的なき裂への成長については速度論的さらには確率論的に解析され,最終的に連続体力学による応力とひずみに基づくエネルギー論的概念で解析できる.