2018 年 75 巻 2 号 p. 164-173
生物の形態は自発的に秩序や対称性を獲得し,自己組織化により生体本来の機能発現を果たす.なかでも有機・無機複合材料として個体レベルで力学機能を発揮する骨は,マルチスケールで緻密に制御された,極めて異方性の強い微細構造により構成される.骨の無機成分であり,六方晶系の結晶構造を有するアパタイト結晶は,生物学的な支配下でその集合組織を形成する.骨系細胞は有機的連携に基づきアパタイト結晶配向性をコントロールするが,とりわけ骨芽細胞による骨形成過程において,その細胞形態,極性や細胞間相互作用の異方性が骨微細構造を決定する.一方で,疾患や損傷により失われたアパタイト結晶配向性の回復には長期間を要し,人為的な制御に基づくアパタイト結晶配向化誘導が骨の健全化には必要不可欠である.本報では,高分子材料や金属材料を用いた人為的な骨配向化誘導のための骨芽細胞制御について概説するとともに,疾患骨を例に,近年筆者らのグループで明らかにしつつある,骨配向化の生物学的制御メカニズムの一端について紹介する.