1992 年 49 巻 2 号 p. 119-123
歯質と歯科用レジンを接着させる新しい高分子材料として, 枝高分子がポリメタクリル酸メチル (PMMA), 幹高分子がポリ (p-スチレンスルホン酸) である水溶性のグラフトコポリマー (gMS) を合成し, このポリマー水溶液の性質及び歯質表面への反応性を評価した. gMS水溶液の表面張力は濃度増加に対して不連続に変化した. グラフトコポリマーにおける疎水性蛍光プローブの吸収波長は, ランダムコポリマーにおける吸収よりも低波長側にあり, 濃度を増加させても変化しなかった. この結果は, gMSが水中でミセルを形成し, そのミセルの疎水構造は安定であることを示している. gMS水溶液で処理した牛歯エナメル質について, X線光電子分光計により元素分析したところ, エナメル質上にポリマーが存在すること, さらにその表面は, PMMAの性質に類似することが付着張力の測定により明らかになった. この表面に対する歯科用レジンの接着強さは対応するランダムコポリマーより高かった. これは, gMSで処理したエナメル質表面が歯科用レジンに対し, 親和性を有することから解釈できる.