2024 年 45 巻 p. 147-164
日本のフェミニズム勃興期から戦前に母性主義者として活動した山田わか(1879–1957)には、アメリカの売笑をめぐる社会事業・福祉問題運動家「マイナー女史」(「女史」はわかによる呼称)の著書を翻訳した『売笑婦の研究』(1920)がある。モード・マイナーMaude E. Minerは、ニューヨーク市の「夜間法廷」や保護施設で出会った約1000人の若い売笑婦たちの生の声を記録・分析し、彼女たちが売笑に至った理由が家族関係や経済状況など複合的な要因にあることを豊富な事例を通して検証した。マイナーはまた、売笑婦の更生と社会復帰を手助けする保護施設を自ら設立し、売笑を社会問題として捉える視点と、売笑を予防するための社会と法的な整備を訴えた。ここでは『売笑婦の研究』を紹介し、マイナーの知見と人身売買被害の当事者でもあったわかの廃娼の思想との間の共通点を指摘する。